白居易「読漢書」

【原文】
  讀漢書 唐·白居易
禾黍與稂莠 雨來同日滋 桃李與荆棘 霜降同夜萎
草木既區別 榮枯那等夷 茫茫天地意 無乃太無私
小人與君子 用置各有宜 奈何西漢末 忠邪竝信之
不然盡信忠 早絕邪臣窺 不然盡信邪 早使忠臣知
優游兩不斷 盛業日已衰 痛矣蕭京輩 終令陷禍機
每讀元成紀 憤憤令人悲
寄言爲國者 不得學天時 寄言爲臣者 可以鑒於斯

诗词 白居易 读汉书

【書き下し文】
  漢書を讀む 唐·白居易
禾黍と稂莠と、雨來れば同日に滋り、
桃李と荆棘と、霜降れば同夜に萎む。
草木既に區別するに 榮枯那ぞ等夷なる。
茫茫たり天地の意 乃ち太だ私無き無からんや。
小人と君子と、用置 各〻宜しき有り。
奈何ぞ西漢の末、忠邪竝びに之を信ずる。
然らずして盡く忠を信ぜば、早く邪臣の窺を絕たん。
然らずして盡く邪を信ぜば、早く忠臣をして知らしめん。
優游として兩つながら斷ぜず、盛業日〻已に衰ふ。
痛ましいかな蕭・京が輩、終に禍機に陷らしむ。
元・成の紀を讀む每に、憤憤として人をして悲しましむ。
言を寄す 國を爲むる者、天の時を學ぶを得ず。
言を寄す 臣たる者、以て斯に鑒みるべし。

※『新釈漢文大系97』に拠ります。

【大意】
 草木には(人間にとって)いいものとわるいものとあるけど、茂り枯れることに違いはない。いいものが茂り、わるいものが枯れればいいのだけれど、自然の心はわからん。私心がないのか。
 人間にも小人と君子とがあって、それぞれ登用したり放置したり、相応しい扱いがあるはずだ。にもかかわらず、西漢の末では忠臣と邪臣を共に信じてしまった。忠臣のみを信じていれば、邪臣の狙いを断つことができただろう。邪臣のみを信じていれば、忠臣が悟ることもできただろう。しかし、西漢は、はっきりしとた態度をとらないままに衰えていった。結果として、朝廷を見限ることの出来なかった忠臣の蕭望之と京房は無残な最期を遂げたのである。
 元帝紀と成帝紀を読むたびに、むかむかとして悲しい気持ちになる。天命を知ることなどできないことを西漢末の事例によって肝に銘じるべきであろうと君臣に伝えたい。

※「學天時」の意味が取りにくいなと思いました。ほかにもまずい点はあるかと思いますが、とりあえずこんな感じの詩のはず。

【備考】
 京都・建仁寺塔頭・霊洞院が所蔵、東博に寄託される重文「伏見天皇宸翰読漢書詩」はこの白居易詩を書いたものです。初めの3句がありませんが、書き落としたのでしょうか。それとも切断された? また下の翻刻で赤字にした部分が異なります。「侫」についてはそれほど自信はありません。「命」は「令」とあるべきところ。似ている字なので判断に迷いますが、やはり「命」としか読めませんでした。

 讀漢書
霜降同夜萎草木
既區別榮枯那等
夷茫〻天地意無乃
太無私小人與君子用
置各有宜奈何西漢
末忠邪竝信之不然
盡信忠早絕邪臣窺
不然盡邪早使忠
臣知優游兩不斷盛
業日已衰痛矣蕭京
輩終陷禍機每讀
元成紀憤〻令人悲寄
言爲國者不得學天
時言爲臣者可以鑒
於斯

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